Thursday, December 13, 2012

新政権に期待する経済政策

12月16日の衆議院総選挙が近い。どのような経済政策が望ましいのか。


政策にはコストが伴う
忘れてはならないのは、「万人を幸せにする経済政策はない」ということである。「フリーランチは存在しない」という格言があるが、「政策には必ずコストが伴う」ことを認識せねばならない。

たとえば、失業者への失業手当。

失業手当を増やせば、失業保険の財政を圧迫する。保険が破たんしたときは国庫(税金)の投入が必要だ。その税金は勤労者の負担によりまかなわれ、結局多くの勤労者の労力と時間(=勤労報酬)により、失業者を手当てすることになる。

政策には「トレードオフ(こちらをたてれば、あちらがたたず)」が必ず伴うのである。


日本経済の現状:デフレ経済
さて、簡単に日本経済の現状を振り返ろう。以下、内閣府の資料。

 http://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/menu.html

経済成長率は、実質:0.3%、名目:-1.4%

この数字の意味について、実質とは、日本で生産したモノの数が去年に比べて0.3%しか増えていない、ということ。一方、名目とは、生産したモノを金額で表したもので、それは-1.4%。つまりモノの値段が去年に比べて1.4%下がっているという意味である。

また、GDPの水準は、実質:513兆円、名目:473兆円

これは、実質では生産したモノが513兆円の価値があるけど、今年の価格で見ると(名目)、473兆円しかない。つまり、約40兆円だけ物価が下がった、という意味である。

40兆円。 これはほぼ日本政府の国家予算の半分に匹敵する。

もし、この物価下落(デフレ)を止めれば、40兆円の税収を回復することができる。

今の日本経済において、行政サービスを維持するためにもデフレ対策は必須なのだ。 さて、このデフレを克服する手段には伝統的に2つある。


金融緩和策
インフレターゲットの設定を日本銀行(日銀)に進言するという話がある。インフレターゲットとは、たとえば年率2%というインフレ率(物価上昇率)の目標を設け、2%になるまで日銀がお金を市場にばらまく政策のことである。

もともとはインフレを止めるためにニュージーランド中央銀行が世界で最初に導入したのが始まりで、「デフレ(物価の下落)」を止めるために採用されたことは世界ではない。

さて、この政策は功を奏するか?

答えは、NO。または、YESである。

功を奏するには条件がある。それは「一般の人々が来年物価が上がるという期待を持つ」ということ。「期待形成」とも言われるが、これが必須である。

そもそも、物価とは、世の中で販売されるあらゆる商品・モノの量と出回っているお金の量とのバランスで決まっている。これは18世紀以来の考え方である(貨幣数量説という)。デフレとは、

モノの量>お金の量・・・・・(1)

の状態のことである。このとき、なぜモノの量が多いのか?

それは、人々があまりモノを買わないから。モノを買わないからお金の出回る量が減少し、モノの販売量がダブつくことになる。気を付けたいのは、上記(1)式は、デフレの原因でも結果でもあるということ。

では、デフレの原因は? おそらく現代経済学の解答は、人々の「期待」にあるといっていい。


期待の形成
人々が物価が下がるのを期待すると、本当に物価が来年下がってしまう。これを自己実現というが、その理由は、値段が下がるのをひたすら待つ人々の購買活動にある。 閉店前のスーパーで値段が下がるのを店内で待つ人々を見かけるが、彼らが店内の割引を促しているともいえる。

では、デフレを止めるためには、「一般の人々が来年物価が上がるという期待を持つ」ことが必要条件なら、どうすればその「期待」を形成することができるのか。これが難しい。

(1)式より、お金の量を増やせばよいのでは、という人もいよう。しかし、世の中のお金の量を増やすには、お金が「人手」に渡らねばならない。いつまでもポケットにお金が入っていても、世の中のお金は増えない。(その意味で、定額給付金政策は全く効果がない。)

物価を上げるには、(1)式より、
①世の中で販売される商品の品数を抑える
②人々に購買活動を促す施策を施す

①の策は現実的ではない。②の策は考慮に値する。そこで登場するのが財政の出動である。


財政出動
(1)式より、市場で販売されるモノを、人々から徴収した税金で政府が購入する。

これが20世紀に入って英国の経済学者ケインズが考えた妙案である。

政府がモノを購入すれば、モノの生産が増え、雇用が生まれる。雇用が生まれれば、所得が生まれ、人々の購買力が上昇する。いわば、財政出動は「呼び水」となる。

この意味では、政府が税金を上げるという施策は、政府がその財源で購入を増やすので、景気を冷え込ませるよりも景気を安定化させる効果がある。多くの人はこの点を無視している。

しかしながら、財政出動を税収ではなく、日銀による国債(政府の借金)の買い上げ(日銀の引き受け)により賄って、物価を引き上げるという話がある。これはどういうことなのか。


無税国家の誕生
日銀が政府が新規に発行した国債を政府から直接買い上げるのは、日銀法・財政法で禁止されている。その理由は「無税国家」が誕生するからである。

誰だって税金は払いたくない。政府は日銀に国債を買ってもらうことで財源を調達できれば、「徴税」の手間が省ける。このお金で政府がモノを買えば、世の中にお金があふれ、そのお金で人々も購買活動を活発化させる。これは世の中に「モノ不足」をもたらし、貨幣を「紙切れ」にしてしまう。すなわち、

モノの量<お金の量 ・・・・・(2)

が実現してしまう。ここでモノがなくなるのは、人々の勤労意欲も低下することに起因する。税金のない皆平等な社会主義国家では、 実際これが起こった。

このような事態を防ぐために、法律で日銀による既発国債の購入は原則国債市場で行う(市中消化の原則)ことが義務付けられている。これは無税国家の誕生を防ぎ、お金の価値も担保している。


デフレの克服は可能か
しかしながら、デフレを克服するには(2)式の条件が成り立つことが必要だ。政府が財政出動を税収ではなく、日銀による国債(政府の借金)を買い上げることにより賄うことで、政府によるモノの購入を増やし、人々の購買を促す。よって、物価上昇の機運を上げ、人々にさらなる購買意欲を喚起し、モノの生産が増え、雇用が生まれ、所得が生まれ、人々の購買力がさらに上昇する。よって、デフレを脱却できる。これはかの昭和恐慌を克服した方法でもある。

ただ、このような日銀引受による財政出動は実際にはできない。ならば、人々の「物価上昇への期待」を生むような別の政策が必要である。

ポイントはコミットメント
このような期待を生むには、非常に強力な政府による「コミットメント」、すなわち、政府が約束通りに金融の緩和、財政の出動をしなければ、責任者を「絞首刑に処す」ぐらいの「自己強制力」が必要である。

ある政権が「定額給付金を配りますよ」と言っておきながら配らなかったら、例え次回にちゃんと配られても、「また配られなくなる」ことを期待し、その時に備え、貯蓄を増やすことになる。結果、思うように消費は増えない。

定額給付金を配ると言って配らなかった時は、その責任者を「絞首刑」にすることが多くの人に知られていれば、つまり「コミットメント」がしっかりされれば、人々にとって定額給付金が配られることが期待でき、貯蓄を増やす必要がなくなる。ここがポイントだ。これぐらいのコミットメントができなければ、人々の期待を変化させ、デフレを克服することは全く望めない。


財政出動にはコストと覚悟が伴う
最後に、やはり政府与党、または野党も国民有権者に事実を伝えなくてはならない。国債の発行は政府の借金、つまり将来の税金であるということ。政府は国債保有者から借りたお金を税金で返さなければならない(国債の償還)。国債の償還は「将来の課税」により行われる。

景気を拡大することは、将来の所得(の割引価値)を犠牲にすることでもある。この不都合な事実を伝えることも政府の重要な仕事の一つである。

デフレの克服は急務ではある。が、デフレを絶対克服するという「覚悟」と克服するための「コスト(将来の税金)」が同時に伴うことを、各候補者が有権者にしっかり伝えているかを見極めなくてはならない。有権者にとって甘い公約ほど高くつく公約はないのである。

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