Sunday, January 06, 2013

大学院進学を考えているあなたへ

唐突だが、経済経営系の大学院進学を希望する人々へ4点だけメッセージを送りたい。

小生は2003年から2005年まで、旧帝大の経済学研究科へ進学した。将来は学者になろう、またシンクタンクへ就職しよう、といった希望はなく(厳密にはシンクタンク希望だったが、競争が激しかった)、ただ「経済学を学びたい」という素朴な思いからであった。

だが、進学して思ったのが、まず授業について行けない。学部は経済学部であったが、それと全く違う。準備不足もあり、大学院への進学理由が、今から思うと幼稚だった。斯様な反省も踏まえ、以下思うところを述べた。

教訓1:入念な準備をすること

(1)英語
大学院の経済学は英語を使う。専門洋書に基づき授業が行われる。英語が読めないと、教科書が読めない。教科書が読めないと、授業について行けない。

幸い、私の通った大学院はmicroはVarian(1992), microeconomic theory, macroはBlanchard and Ficsher(1989), lectures on macroeconomics or Romer, advanced macroeconomicsで、邦訳がそろっていた。 英語が苦手でも救われる。が、しかし、英語を読む力は、大学院での学習度合いを左右する。洋書の方が良書が多いのは事実で、和書も良い本が増えてはいるが、選択肢は大幅に狭まる。

(2)数学
経済系学部以外からの進学者を想定して、近年ではmath campなるものが授業開始前に行われ、数学の基礎が教えられる。しかし、経済学の学習には3つの数学的素養が欠かせない。

①等号/不等号制約条件付き最適化(ラグランジェ/クーン・タッカー)
②動的計画法(DP)と最大値原理(ハミルトニアン)
③位相数学の初歩

①はVarianに載っている。②は近年関連書籍が本当に充実してきた。しかし、これらはできれば入学前に習得した方が良い。入学後、大学院生から教わるのも手だが、多くは望めない。ある程度自分で勉強したうえで、年長の大学院生または先生から教わる方が良い。話もうまく運ぶはずである。小生は残念ながら、これらを全く知らずに授業を受け痛い目にあった。

③は、私が大学院を出た後に重要であることを実感した。③は高校数学でいう論理集合である。とくにコンパクト集合上における点列収束など、最適解を割り出す前提条件を知ることは、理論系・実証系・政策ビジネス系問わず等しく重要である。

もし、経済の数学をもう少し基礎から勉強したいなら、高校数学 第4巻 数研出版 がおすすめである。

そもそも理論系であろうがなかろうが、「大学院で経済学を学びました」というならば、分離超平面定理について、証明はともかくも簡単に説明できることは必須であり、専門書に載っていることは、一通りある程度の水準で解説を行うことができるようになることが重要である。

世間の人は、「●●大学経済学修士号取得」という肩書を見て、経済学の見識があると見る。
当然のことだが、そこで深刻な誤り(誤りは学者研究者にも付き物だが)を犯せば、修士号とそれを与えた大学の名誉が傷つく。

以上、2点は留学を考える人にも同様に当てはまる。

教訓2:相談できる人を持つ

どこの世界も重要なのは人間関係である。我々は社会的な生き物であるのだ。

(1)話ができる人を持つこと
確かに「大学の先生になる」という共通目的があれば周りとすぐに仲良くなれるが、小生にはそれがなく、サラリーマンになるという人とも仲良く振る舞えなかった。

日本の大学院は現状「大学教員養成大学」である。さもなくば「職業人養成大学」である。いわゆるMBA大学院などは後者に該当し、科目も資産税法基礎などかなり実践的なラインアップである。しかしながら、旧国立大学院は、たとえ後者のような大学院を装っていても前者である。

よく考えると、教員がほとんど企業官庁出身ではなく大学の先生ならば、「職業人養成」なんてそもそも無理である。「料理評論家に寿司を握れ」と言っているようなものである。寿司職人になりたいなら、すし屋に修行するのが筋である。この観点から言うと「職業人養成」とはそもそもおかしい話である。

もし、目指す方向が大学教員でも職業人でもなければ、私は大学院での生活は非常に窮屈だと思うが、その窮屈な思いに耳を傾けてくれる先輩なり同僚なりがそばにいれば、それは非常に救いである。しかしそれは逆に自分がほかの院生の話を聞くことができる器量があってほしいことをも意味する。

また、これが重要なのだが、勉強で分からないところがあれば、まずは人に聞くことが重要である。ある企業の社長が「仕事ができる人」とはどんな人かについて話していた。「分からないことを本で調べる人」は落第である。「周りの人から上手く聞き出す人」が「仕事ができる人」だという。これは院生の出来不出来にも大いにあてはまる。

(2)いろいろなバックグランドを持った人がいることを理解する
フリーターをやって進学している人、会社員・公務員だった人など、大学院への進学者はさまざまである。それなりの理由を持って勉学に励んでいる。

彼らは決して自分に対して当たりはよくないかもしれないが、一人でも多くの院生が「人それぞれ色々な背景と事情を持つ」ことを理解していれば、院生を取り巻く雰囲気は多少変わってくる。研究や勉学にも幅と奥行きが出てくる。何事も大きな気持ちが必要だろう。

教訓3:授業に集中する
授業の進度は一般にすごく速い。授業シラバスに則り予習を進められるならよいが、そんな余裕はないだろう。宿題をとにかくこなし、復習をし、中間・期末試験を落とさないよう日々訓練することが重要である。そのためには2点必要である。

(1)先生の話をよく聞く
基本的だが、失敗する人の多くはできていない。皆さんの受ける授業が、分かりにくく回りくどい解説の授業かもしれない。教科書の文言を復唱する授業かもしれない。とにかく速い口調で追いつかない授業かもしれない。

いい先生に出会うことほど幸運なことはない、と実感することがしばしばだが、その授業で単位をとるなら、授業を統括・運営する先生の言うことに従わなければ、単位は取れない。

先生のお勧めする教科書と違う本を読んでいては成功はしない。副読本ばかり眺めていては、理解は深まらない。授業が理解できなければ、周りの院生か、先生に質問すればよい。

何を質問してよいか分からないという人は、そもそもその授業が何を教えているのかを把握できていない証拠である。先生が話している単語、数式、定理などをメモし、自分なりに「今日は選好理論の…の定理についてだな」と理解し、その要点がかわからないならそこで先生に質問すればよい。

(2)教科書は読むな
逆説的だが、教科書が指定されているならそれを読むべきかもしれない。が、授業では先生の話をまず第一に聞くべきである。また、資料・レジュメがあるなら、それを優先して目を通し、理解に努めることが肝心である。

よく授業に出ないで、教科書をひたすら丹念に読む学生がいるが、失敗する可能性は大きい。本当に教科書通りでやる先生なら良いが、たいてい院生への授業は論文などが与えられるのが普通で、教科書は一般的な概要(つまり底が浅いか、幅が狭い)しか説明されていない。

自分の理解を先生の理解にできるだけ近づけるようにすることが必要である。先生が重要だということよりも、重要だと主張する理由は何かに耳を傾けよう。高い授業料を払って大学院に入っているなら、とにかく先生の言葉、理論への理解、授業を優先せよ。課題を優先せよ。レジュメを優先せよ。教科書の読解は時間がなければ不要だ。

教訓4:選択肢を持つ

小生は現在予備校講師、フリーター生活である。男一匹なら十分に食えるだけの収入はあるので、今は困っていない。それって不安でしょ?って聞かれることがあるが、近年会社勤めしても不安定である。一部上場または官庁に勤めていた方がよっぽど収入も生活も楽でしょう?って言う人もいるが、自由で気ままな生活を好む小生にとって、時間も余裕もあり、今の身分は「それなりのコストを支払った上での」身分である。他人がとやかく言う問題ではない。

しかし、考えてみれば稼ぎを得る仕事をするうえで、「選択肢を持つ」ことは非常に重要ではなかろうか。「何か得意なものがある」といってもよい。職業的な技術だけではなく、何か好きなことがあることは重要である。自分は経済学と英語の両方を駆使して講師家業を営んでいて、大学院で学んだことは必ずしも無駄にはなっていない。むしろ、大学院を出て証券会社に就職した人よりも大学院で学んだことは糧になっている。

決して高い学費を溝に捨てていない。 しかし、もう少し上手く大学院での勉学を進める方法はあったのではないかと悔やんでいる。

時間を有効活用できなかった、準備不足、分からないことをとことん突き詰めて考えるエネルギーに欠けていた、など反省点は目白押しである。

何者になるかよりも、何をしたいか。この点を良く考え、選択肢を持っておく。大学教員を目指すあなたも、それは悪くないが、他の選択肢を持っていた方が良かろう。

夢や希望は持っておくべきである。それは追いかけるものではなく、日々の生きる糧である。金を稼ぐことも重要だが、生きていることの実感も重要であるし、それは宝である。何をしたいかを考え、大学院での勉学に励まれたい。そして、その勉学を十分に生かすべきである。その気持ちは自己の研究にも影響を与えよう。

以上は、何よりも私自身に向けたメッセージでもある。勉学する心を忘れてはならない。新しい見方を切り開くという、大それた思いを抱き続けることは重要だと思う。

2013年1月13日改

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