Thursday, January 17, 2013

【覚書】円安、株高、インフレと好景気

株価の上昇は景気回復の予兆?!
某大学の経済学部の編入学試験で

「為替レートと日本のあるメーカー(輸出産業)の株価のグラフについて、考えられることを述べよ」

という問題があった。確かに、それは円高になればそのメーカーの株が下がって見えるグラフだった。が、この場合円高は輸出産業の利益を下げ、その株を下げると答えてよいのか。本当に、「円高は輸出産業の利益を下げ、株を下げる」のか。この点を考えよう。

(1) 円安⇒輸出増加(マーシャル・ラーナー条件を満たすとき)

という点はよい。

(2) 輸出増加⇒輸出産業の利益増加

これもよい。しかし、

(3) 輸出増加⇒株価上昇

という点は、多くの人々は認めるかもしれないが実に怪しい。

株高と実体経済は別
例えば、

「あなたは死体を目にした。そこに警官がやってきた。警官は、『お前がやったんだろう!』といって、あなたを逮捕した。あなたは『僕じゃない・・・』と返す。」

この文だけを見れば、あなたが人殺しかどうかわからない。ただ人が死んでいるのを見ただけ。これを、

 「あなたは輸出産業の株高(死体)を見て、買った(目にした)。そこに別の投資家(警官)がやってきた。投資家(警官)は、『円安だから株を買った』(『お前がやったんだろう!』)といって、その株を買った(あなたを逮捕した)。あなたは『株が上がってたから買っただけ』(『僕じゃない・・・』)と返す。」

すなわち、あなたは株を買った理由が「円安による産業の利益増加を見て買った」というよりも、「株価が上昇しているのを見て株を買っただけ」となる。あなたはあなたの前の人も「株価が上昇しているのを見て株を買っただけ」の人かもしれないし、その前の人もそうかもしれない。

たとえ、その中に輸出産業の財務諸表をしっかり見て株を購入した人(機関投資家など)も含まれようが、むしろ株を買う人はあなたのような人(個人投資家など)かもしれない。

つまり、株が上昇していることが、企業の輸出増加による利益増加を反映し、将来景気が回復することを予知しているとは限らない。すくなくとも、株高が景気回復ではなく、株高そのものが株高を作ったかもしれない可能性がある。(輸出増加が景気を回復するかについて、内需が一定ならば、増加分だけ国民所得は増加する。)

円安の正体とインフレ
為替レートの変動は、期間の短い方から順に、①内外金利差、②経常収支、③物価の3点で説明がつく。

円安は、インフレがまだ進んでいないことから、日本の金利が低いことと経常収支赤字の結果(純輸出<0⇒円安)と考えるのが妥当である。もちろんインフレになれば円安にもなる(外国のインフレ率との兼ね合いだが)。

インフレを起こし、円安に誘導し、輸出を増やし、景気を回復する。途中株高により資産効果から消費や投資が増加し、それが国民所得を増加せしめ、景気をさらに押し上げる。

いいこと尽くしだが、このとき日本の金利が上がればどうなるか(金融緩和時は上がる可能性はないが)。輸出が伸びなければどうか。問題はインフレまたは円安がそう簡単に起きるかどうかだ。(この点は次回)

デフレスパイラルの意味
インフレにすれば景気が良くなる。この議論の背景には「デフレスパイラル」という問題があるように思う。

「デフレにより、企業の売上、利益が減り、人々の賃金が減って、消費が減り、景気が悪くなる」

つまり、

(4)デフレ⇒景気後退

という図式が成立する。これは正しいだろうか。

まず、デフレ・インフレはあくまで指数で、モノの価格そのものではない。そして、デフレそのものが不況の原因ではない。もしそれが真ならば、「インフレが好況の原因」となる。それでは、スタグフレーション(インフレ+不況)をどう説明しようか。

米国の教科書にはデフレスパイラルの文字がそもそもないのが事実で、「デフレスパイラル」がさす内容そのものに疑問が残る。

小生の知る限り、フィッシャーの「負債デフレ」論が「デフレスパイラル」論の指す内容を理論的に支持しているように見える。

『人々が将来デフレになるだろうと考え、今の実質利子率が上昇する。これが民間企業の投資を締め出し、総需要が減退(将来返す負債の額が大きくなるので、借金して設備拡張しなくなる)。よって、国民所得(と物価)が減少する。(マンキュー『マクロ』11章)』

この点から進めると、名目利子率を金融政策で下げようともすでにゼロ金利で下げられず、実質利子率のみが上昇、貨幣需要が上昇し「流動性の罠」が実現する。日本がその罠にあるかどうか議論があろうが、ここから抜け出るために、インフレターゲットでインフレ期待を起こし、実質金利を押し下げ、国民所得を引き上げる。これが「アベノミクス」と呼ばれる政策のねらいであるかもしれない。

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