Sunday, March 16, 2008

武藤氏はダメだ!(植草氏の見解)

スリーネーションズリサーチ株式会社の植草一秀氏による、日銀総裁人事についての補論(2008年3月7日)。

『政府は3月19日に任期満了となる日銀総裁、副総裁の後任候補者を国会に提示した。総裁候補には武藤敏郎現日銀副総裁、副総裁候補に白川方明京大教授、伊藤隆敏東大教授が示された。  

今回の人事での焦点は財務省事務次官経験者である武藤敏郎氏の総裁昇格が国会で同意されるかどうかである。政府、財務省はあらゆる手段を用いて武藤氏の総裁昇格実現に向けて行動している。また、大多数のマスメディアが財務省の世論誘導活動に協力している。

 …中長期の視点から武藤氏の総裁昇格に不同意するべきである。

第一は日本銀行の財政当局からの独立性を重視すべきことだ。日本は第2次大戦に際して巨額の戦費を日銀による国債引受けで調達し、戦後に悲惨なインフレを招来した。政府債務は帳消しとなり、預金者は甚大な損失を蒙った。  

戦後の主要国では中央銀行の財政当局からの独立性が最重要視された。しかし、日本では日本銀行を政府の支配下に位置付ける旧日本銀行法が残存し、1998年に改正法が施行されたものの、独立性の規定には強い曖昧さが残されている。

日本政府の債務残高は主要国と比較しても突出して巨額であり、財政当局にインフレ誘発による政府の実質債務残高解消の強い誘因が存在している蓋然性が極めて高い。  

ドイツ、米国、欧州中央銀行などで財政部門幹部を経験した人材が中央銀行総裁に就任している例が存在しているが、日本とは事情がまったく異なる点に留意しなければならない。これらの国では法律、慣例、政策決定メカニズム等のなかで中央銀行の独立性が完全に確保されている。そのため、財政部門の幹部を経験した者が中央銀行総裁に就任しても中央銀行の独立性が脅かされるリスクが存在しない。

しかし、日本の場合には政策決定の最高機関である日本銀行政策委員会の委員選任方法を含めて、日本銀行の独立性を完全に担保する制度および慣行が確立されていない。今回、副総裁候補たされた伊藤隆敏氏も財務省との距離が近いことに留意が必要である。伊藤氏が提唱するインフレ・ターゲティング政策はインフレ誘導策に転化するリスクをはらむものであり、中長期的な通貨価値維持が脅威にさらされるリスクは大幅に高まると判断せざるを得ない。

また、日本では財務省出身者が財務省を離れても「財務一家」、「大蔵一家」の一員として財務省と連携して行動していることは周知の事実である。財務省出身の日銀総裁は財務省と連携して政策運営にあたる蓋然性が極めて高い。

中長期の視点で通貨価値の維持を図る視点から、財務省出身者を日銀総裁候補者から排除することが、日本の通貨価値維持を担保するセーフティーネットと考えるべきである。』


まったくそのとおりだ!!

ただ、「伊藤氏が提唱するインフレ・ターゲティング政策はインフレ誘導策に転化するリスクをはらむものであり、中長期的な通貨価値維持が脅威にさらされるリスクは大幅に高まると判断せざるを得ない。」という点には注意が必要である。

インフレターゲティング政策とは、そもそもインフレ誘導策に転化しないための防衛策的な手段としてニュージーランドなどで採用されてきた政策であり、インフレ抑止に貢献している実績があることが知られている。

その政策実施の争点は、インフレターゲティング政策がデフレ阻止に使われたことが一度もないことだったのではなかろうか?これがまさに90年代後半の日本の金融不況をどう克服するのかという経済論壇をにぎわせたテーマではなかったか?

問題は、総裁候補や政策委員がインフレターゲティング政策を支持するかしないかではなく、物価の安定と金融システムの安定をとことん追求できるか否かだ。

しかしながら、植草氏の上記の見解には賛同する。

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