この一週間は、小生今般の日銀総裁人事について、あらゆる角度から識者の論見を交えながら考察したい。やや政治経済論壇になってしまうが、小生こういうのが結構大好き。
今日は小生の大好きなジャーナリストの田原総一朗氏の日銀総裁人事についての見解。
『日本銀行の新総裁を巡って、与党と野党が対立している。
政府は、総裁に元財務事務次官の武藤敏郎副総裁、副総裁に伊藤隆敏・東大大学院教授と白川方明(まさあき)・京大大学院教授を充てる案を提出したが、野党が武藤総裁案に猛反発。結局12日の参院本会議で、白川さんを除く、武藤、伊藤案は否決された。
翌13日の与党が多数を占める衆議院本会議では3人が同意されたが、両院で同意のあったのは白川さんだけという結果になった。このため総裁が空白になった場合は白川さんが総裁の職務を代行することになる…
...第1の反対理由(武藤さんが財務省出身であること)については、確かに、日銀が財務省からも政治からも独立すべきだというのは当然だ。
しかし、だからといって、財務省出身者が日銀の総裁になったら独立が損なわれるのかというと、必ずしもそうでもない。現に、アメリカやヨーロッパでは財務省出身者が中央銀行の総裁になっている例が少なからずある。
今、政治家と官僚の癒着が問題になっている中、「政官分離」は当たり前のことである。もし、「財政と金融の分離のために財務省出身者の就任は反対」と言うのならば、「政官分離」の原則で、官僚から政治家になるのもおかしいということになる。
そうすると、官僚出身の伊吹文明さんもおかしければ、加藤紘一さんもおかしいことになる。官僚から政治家になった人はたくさんいるわけだが、彼らを皆おかしいと言わなければならない。
日銀が金融からも政策からも独立していなければならないというのは当然だ。しかし、だからといって、財務省出身者が総裁になればその独立が保たれないという理屈には必ずしもならない。』
この点に関しては、田原氏の金融政策に対する認識不足といわざるを得ないだろう。問題は、財務省出身ということが日銀の独立性を脅かす「シグナル」として十分に働きうるということである。
仮にこのシグナルが十分に国内外の政策立案者、マスコミ、市場関係者らに効果的であるなら、日本の国債、通貨ならびに金融資産に対して過大な不振が向けられ、ひいては金融不安を導くかもしれない。
先の植草氏の見解のとおり、法によって総裁人事が日銀の独立性を十分に担保しうる形で決められるのであるならよいが、現状は必ずしもそうでない。
しかしながら、田原氏は経済に弱いとしても、以下の見解は傾聴に値する。
『これまでも衆議院のやり方が気に入らずに、参議院で野党が1週間くらい“寝る”ことはあった。いってみれば“駄々をこねる”状態だ。そういう場合、今までであれば自民党が色々と野党に配慮して、“起こして”あげていた。野党が自民党に色々とあやされたり、すかされたり、脅かされたりして、やむなく起きるということが多かった。
ところが今、参議院は野党が多数になった。そうなると、自民党に起こす力がない。野党は野党で、これまでずっと自民党に起こしてもらうことが続いていたので自分で起きられないのではないか。両方とも、手のつけようがなくて困っているという状態なのだと思う。
民主党代表の小沢一郎さんははっきりと、「衆議院でこれほど乱暴な採決をしておいて、そして武藤氏就任を認めろというのはないだろう」と言っている。ということは、もし自民党が衆議院で乱暴な採決をしなければ、民主党は武藤さんの日銀総裁を認めたのか、と言いたくなる。
僕は、武藤さんの日銀総裁就任に反対することで、実は民主党がやっと一致できているのではないかと見ている。
民主党内は足並みが揃っておらず、意見も相当食い違っているが、「武藤さんに反対でいこう。ほかには色々とあるが、これだけは反対していこう」ということだけやっと一致しているのではないか。
外から見ていると、日銀総裁や武藤さんを巡って、自民党と民主党が党利党略の材料としているようにしか見えない。
...自民党政府の政策に民主党は真っ向から反対している。真っ向から反対するのであれば、民主党は野党第一党であり、新しい政権政党を目指しているのだから、当然もっと早くから政策の対案を出すべきだった。
...民主党のある幹部に、「もう形ができているのに、どうして民主党は対案を出さないのだ」と聞いた。するとその幹部は、「実は我々は政策で審議したいと考えているのだが、民主党の中に絶対に政策の審議はしたくない人がいる。政策ではなく、政局にしたいという人がいて、この人が非常に強硬なので、対案を出すわけにはいかないのだ」と言っていた。
...このような民主党の苦しい姿勢や内部の混乱が、今回の武藤氏の日銀新総裁就任反対に表れている。どこからみても色々な矛盾がありながらも強く反対と言い続けている。これは民主党の苦しさを表しているのではないかと僕は思う。
小沢さんは、民主党における統率力、リーダーシップを相当失っている。武藤さんの新総裁就任に反対せざるをえない、反対することでやっと民主党の中で一致団結できると考えた。これが、今の小沢・民主党の苦しさだ。』
今の総裁人事の背景には、民主小沢一郎の相変わらずの「駄々こね」、小沢民主党の求心力低下並びに自民党と民主党が党利党略があるということか?
もしそうなら、日本銀行の総裁選びには過度に政局、政情に依存する格好を国内外に示しているとも見て取れる。そして、もしそう見て取れるのなら、「日銀の独立性」はどこにあるのか、と改めて問いたくなる。
日銀の独立性が担保されていない、というこの一点について、今般の日銀総裁人事はもしかすると意外に大きな問題かもしれない。
しかしながら、これらはあくまで田原氏のシナリオに過ぎないが、筋は通っているようにみえる。
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