小生にとって医療問題が一番面白かった。これはHall and Jones(2007),Q.J.Eを元に、アメリカにおいて「なぜ医療費が増加するのか」という危急の課題に焦点を当てている。近年日本においても社会保障関係費が一般会計基礎的財政収支対象経費のおよそ4割、歳出全体の3割を占めている(2015)。毎年1兆円ずつ増加する社会保障関係費のうち7割を占めているのが年金・医療保険であり、医療費の増加が高齢化進む日本において深刻な課題となっている。
従来「技術革新・新薬の登場」が医療費の増加の原因とされてきたが、この論文ではダイナミックプログラミングを用いて、国民所得の増加とともに、消費支出が増える中、医療にかかる限界効用が消費活動の限界効用よりも速く逓減しないために医療への支出が増えることを示している。
つまり、寿命を延ばすことにより高い価値を求めるがために医療費が増えるのであり、それは合理的な選択の結果であることを示しているのである。伝統的に寿命が延びることは評価されてきたが、年金や医療費 の高騰をもたらして国家財政を圧迫している現実もある。著者はアメリカにおいて社会厚生を最大化するためにはGDP(国内総生産)の3割を医療費支出が占めるのが望ましいとしているが、日本においては保険医療費はすでにGDPの1割を占めている(日経新聞2014/8/27)状況である。具体的な対策につ いては言及はしていないが、医療問題を考える優良な資料となっている。
ただ、もうちょっとダイナミックプログラミングについて解説があった方がいいと思うし、モデルの解説ももうちょっとほしい。 多期間の消費決定問題において、ベルマン方程式、
V(K)=max{C^(1-γ)/1-γ+βEV(K')}
を組んでオイラー方程式、
RβE(C'
/C)^(-γ)=1
を導くことができれば本書の内容を理解できようが、詳細は元論文に当たる必要がある。経済学の参考書としてお勧めしたい本である。
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