Thursday, November 22, 2007

貿易黒字は良いこと?

08/29/2010 一部修正

最近(11月21日から22日)の記事。貿易黒字、雇用情勢の悪化、そして、株価の低落。さて、これらの事象はお互いに関連しているか?関連しているとすると、どのように関連しているのか?とりあえず、新聞記事を読んでから、考えてみよう。

(1) 財務省が21日発表した10月の貿易統計速報(通関ベース)によると、輸出額から輸入額を差し引いた貿易黒字は前年同月比66.1%増の1兆0186億円で、3カ月連続プラスとなった。中東やロシア向けの自動車輸出が好調に推移し、黒字拡大に寄与した。 輸出額は13.9%増の7兆5155億円。輸入額も原油価格の高騰で8.6%増の6兆4969億円となり、輸出入額ともに過去最高を更新した。 地域別の黒字額をみると、対アジアは携帯電話部品の輸出が伸び、59.5%増の7473億円と10月としては過去最高。対欧州は英国、フランス向け自動車輸出がけん引し51.4%増の4759億円となった。一方、対米は低所得者向け高金利型(サブプライム)住宅ローン問題の影響で自動車や建設機械の輸出が伸び悩み、8.5%減の7173億円と2カ月連続で前年を下回った。(時事通信)

(2) 内閣府は21日、27日に公表する11月の月例経済報告で雇用情勢の判断を下方修正する方針を固めた。8、9月の完全失業率が2カ月連続で悪化したことを受けたもので、下方修正は平成16年9月以来、3年2カ月ぶり。ただ、企業の設備投資が堅調で全体の基調判断は維持する。 雇用情勢では、3カ月連続の「厳しさが残るものの着実に改善」との表現を「このところ改善の動きが弱まっている」に弱める見通し。9月の完全失業率が前月比0・2ポイント悪化し、半年ぶりに4・0%となった。原材料価格の高騰などで中小企業の業績が低迷していることが背景にあり、個別判断を見直すことにした。 一方、企業の生産が一時の低迷から脱したことで、設備投資は堅調に推移しており、設備投資については判断を上方修正する方向で調整する。個人消費は、足元の消費者マインドは弱含んではいるものの、家計支出そのものは一定水準を維持していることから判断は維持する。ただ、失業率の上昇は消費に波及する懸念も強く、先行き不透明感が増している。 (産経新聞)

(3) 21日の東京市場では、米景気の先行きに対する不透明感が広がり、為替、株価、長期金利とも大荒れの展開になった。円相場は2年5か月ぶりに1ドル=108円台を付けた。 株式市場では日経平均株価(225種)の終値が1年4か月ぶりに1万5000円を割り込み、長期金利は2年2か月ぶりの低水準を記録した。 東京外国為替市場の円相場は一時、1ドル=108円80銭と2005年6月以来の水準まで上昇した。午後5時、前日(午後5時)比、1円29銭円高・ドル安の1ドル=109円11~14銭で大方の取引を終えた。 米連邦準備制度理事会(FRB)が20日、米成長率予測を下方修正し、米国の追加利下げ観測が広がったことから、円買い・ドル売りが加速した。 (読売新聞)


日本の昨今の貿易黒字の詳しい解説についてはココ(ただし、英語)。経済の構造は

(1) (所得)+(輸入)=(消費)+(投資)+(輸出)

が均等するように成り立っていて(政府部門は捨象)、左辺は経済の供給(つまり、国内及び海外で生産された商品・サービスの量)、右辺は経済の需要(国内で生産された商品・サービスの購買量)を表している。つまり、

(2) (供給)=(需要)

がマクロ経済的に成立していると考えても良い。ここで、

(所得)-(消費)=(貯蓄)

でもあるから、最初の式に代入すると、

(3) (貯蓄)-(投資)=(輸出)-(輸入)

が恒等的に成立する。これをISバランスとか、アブソープションとか言ったりするが、なぜか、これらの用語は近年の教科書にはあまり散見されない。

さて、この最後の恒等式が、今の日本経済を説明してくれる。

*恒等式と方程式の違いだが、例を挙げるとわかりやすい。方程式は、3X+1=4。恒等式は、3X+1=3(X+1/3) つまり、方程式のなかのXにどのような数字を入れても等式は成り立たないのに対して(X=1のとき、等式が成立)、恒等式は常に等式が成立する。恒等式の「恒等」とは「常に等しい」という意味である。

さて、貿易黒字のとき、すなわち、外貨による収入(輸出)が外貨による支出(輸入)よりも多いとき、

(輸出)-(輸入)>0

が成立し、このとき同時に

(貯蓄)-(投資)> 0

が成立している。さて、この上記の式は何を意味しているのか?

(4) (貯蓄)-(投資)=(供給)-(需要)

と読み替えることで、

(供給)-(需要)>0

が得られる。貯蓄は財を購入するための原資であり、この原資から、財を購入し、それで物を作るという投資を行う。上記の式がプラスとは、物を購入し、財を生産する投資需要が、貯蓄という資金供給に見合っていない、つまり、カネが余っている状態を言っているのである。*以上の不等式は貸付資金市場の不均衡を表している。ここで、

(貯蓄)-(投資)> 0

は、国内の需要が供給に比べて低いこと、カネが余っている経済の「不況」、「不景気」をあらわしているとも読める。こう読むと、同時にもう一方では

(輸出)-(輸入)>0

となり、「不況」を意味するとも読める。もちろん、別の読み方も出来て、海外の日本製品に対する需要が顕著に高く、結果外貨が日本に流れ、輸出企業は外貨を邦貨にして日本国内で決済するので、円が買われ、「円高」になる。円高は貿易黒字を縮小させよう。

以上より、昨今の貿易黒字は、雇用が伸び悩み、株価が下がっていることから、日本国内の景気が下降気味で、結果(貯蓄)-(投資)がプラス、つまり貿易黒字が起こっているとも読める。

ただ、気をつけたいのは、上記(3)式は因果関係を表すものでない。だから、ほかのデータ・指標を用いて日本経済に何が起こっているのかを実証的に検証しなくてはならない。

結論としては、貿易黒字は日本の製品が外国でよく売れているというプラスの見方以外にも、日本の製品が国内であまり買われないというマイナスの見方もできるということである。貿易黒字が日本の経済・景気に良いかどうかは、その変動が過去日本経済にどのように影響したかを統計的に把握する必要がまずある。

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