Monday, March 17, 2008

日銀総裁に経済学は必要か?(太郎の見解)

政策研究大学院大の安田先生のブログに面白い記事。日本におけるマクロ経済学の大家である林文夫先生の「日銀総裁・副総裁」に関するコメントを紹介。

さて、日銀総裁について私見を述べてみたい。両氏の日銀総裁に関する見解にはどのような人物が日銀総裁に適当なのかというレフェレンスポイント(参照値)がはっきりしない。ここでは、どのような人物が日銀総裁/副総裁にふさわしいのかを考えたい。

結論から言うと、「日本銀行の目的関数を最大化する人物が日銀総裁/副総裁にふさわしい」。ではその「目的関数」は何か?

まず、林先生の言う

(1)日銀を,財務省の天下り先にすべきではない

という見解から考えたい。この見解は、日本銀行の目的関数、つまり日本銀行の目的から考えて理に適っているだろう。それは大きく分けて2つ。物価の安定と金融システムの安定。(期末試験に出るかも?)

過去小生3回ほど日銀マンと話したことがある。彼らが口を開くと必ずこの2つをあげる(一種の営業文句か?)。

つまり、「物価の安定」を図ることにより、「国民経済の健全な発展」に資するとともに、決済システムの円滑かつ安定的な運行の確保を通じて、「金融システムの安定」に寄与することにより、この2つの目的の達成に努める人物が、総裁にふさわしいと言える。

その観点から言うと、日銀が財務省の天下り組織として機能することは適当でないことが考えられる。

つまり理屈はこうだ。たとえば、財務省が大きな減税を敢行したい。しかしその財源がない。どうするか?日銀にその債務を引き受けてもらうことである。いわゆる日銀の国債引受けである。 しかしながら、これは財政法第5条によって禁止されている。

中央銀行がいったん国債の引受けによって政府への資金供与を始めると、その国の政府の財政節度を失わせ、ひいては通貨の増発に歯止めが掛らなくなり、悪性の物価の上昇(インフレーション)を引き起こすおそれがある。そうなると、日本の通貨や経済運営そのものに対する国内外からの信頼も失われてしまう。

仮に、日銀が財務省の天下り先にでもなれば、昔の職場の恩や義理で財務省の財政政策(減税等)に対して何らかの支援や援助を惜しまないというメッセージとして、国内外の投資家や政策関係者にもたれよう。そうなると、最終的に「日本の通貨や経済運営そのものに対する国内外からの信頼も失われてしまう」ことになりかねない。

だからこそ、「日銀を,財務省の天下り先にすべきではない」といえる。至極まっとうな意見。これは日銀の政府からの独立性、日銀法改正の理念にもっとも適う。

しかしながら、安田、林両先生が強調するように、

(2)(植田和男東大教授が)現FRB議長であるバーナンキのMIT大学院時代のひとつ後輩にあたり、審議委員時代から何度も金融政策について意見を交換していたことから、そのコネクションが生かされるかもしれない

または、

(3)(黒田東彦アジア開銀総裁が)オックスフォード大学経済学修士であり,大蔵省の役人にはきわめて珍しく,おおむね筋道が立った議論ができる(しかも英語で)

という2点については、そもそも総裁候補は英語で議論ができ、外国大学の修士、博士号を取得済みで、諸外国の中央銀行総裁とコネがあることが適当であろうか?

日銀の上記2項目(物価の安定と金融システムの安定)の目的を達成する人物であるなら、(あえて極論を言えば)私が日銀総裁になっても、誰がなってもいいのである。(日銀総裁かぁ~)

別に、国際会議で相手にされなくてもよいのである。(国際会議で相手にされることが、日銀の目的遂行にプラスなら話は別だが)

もちろん最低限の知識、日銀が何をするところなのかぐらいは知っていないとまずいだろうが、英語が使えて、経済学の知識が豊富であることが中央銀行総裁にふさわしいという理論は小生どこにも見当たらないし、またバーナンキ議長とのコネが日銀の目的の遂行と達成にとって効果的であるかどうかも疑わしい。

要は、中央銀行の目的遂行(物価安定と金融システム安定)に強力にコミットできる人物であればよいし、総裁候補はその観点で考えるのが筋である。

過去の経歴や学歴は大きな要素になりえないのでないか?もちろん、過去の経歴が日銀の目的遂行にコミットできうるという「シグナル」になっていれば別だ。なお、中央銀行総裁の学識について、東大の岩本先生は面白い見解を述べている

また小生は金融政策の決定について、政策委員のお一人である須田美矢子氏に直接質問したことがある。(2005年大阪大学経済学部にて)

太郎:「金融政策を実行するに当たり、海外経済、または海外中央銀行の動向はみるのか?」

須田氏:「見ない。」

非常に明確である。90年代初めに流行った国際的なポリシーゲームのモデルに見られるように、海外中央銀行の動向をにらみながらの政策決定はしていない、というのが須田氏の見解である。国内の経済動向しか見ないのが現状であるし、それがすごく当然である気もする。

なぜなら、物価の安定も、金融システムの安定も、コストプッシュインフレやサブプライムローン問題に見られるように海外のショックが国内経済を揺らす原因ともなろうが、基本的には国内的な目的である。だから、政策も国内的になる。至極当然である。

また、ある日銀マンも言ったことであるが、日本銀行の業務は「非常に国内的」であるようだ。(小生その内情は知らないが、過去2回日銀を受験している。)英語が使える、海外の大学卒が、総合職では特に求められるわけでもない。日銀は、たとえその業務が国際的な影響を持ったとしても、しごく国内的な組織なのである。

小生の結論は、「日銀総裁は物価の安定と金融システム安定に強力にコミットできる人物がふさわしい」。黒田氏や植田氏がその点において適当な人物かどうか?その点を考えるべきである。

最後に、日本銀行のホームページはとても参考になります。

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