Tuesday, October 07, 2014

古典派:3つの「中立命題」

古典派理論には「中立命題」がある。マクロ経済学ではいずれも重要な命題で、ケインズ理論との違いを押さえておく上で重要だ。

(1)貨幣の中立命題

これは「古典派の二分法」、「自然率仮説」とも称され、金融緩和策は市場が清算していれば物価を引き上げるのみ、という貨幣数量説の命題である。貨幣はマクロ経済の実物的要素である消費、生産や雇用に影響しないという説である。

イギリスの哲学者デイヴィッド・ヒュームがこの学説の由来とされるが、ヒューム自身この中立性を厳格には支持していない。

もし市場が清算していない、物価が硬直的な「短期経済」の下では、金融緩和は貨幣の実質価値を引き下げ、実物的要素である消費や投資支出を増やし、GDPと雇用を自然率まで増加させることができる。

しかし、いったん経済が自然率、完全雇用の水準に達すれば、市場は清算して、需給が一致し、金融緩和は物価を引き上げはすれど、実物的要素を増やさない。よって、金融政策は効果がない、というもの。現代マクロ経済学では基本的な命題である。


(2)公債の中立命題

これは「リカード・バローの等価定理」とも称され、政府による財政政策は経済活動に中立的という命題である。政府が公債を発行して公共事業を行おうが、増税により行おうが経済の実物的要素である消費、生産や雇用に影響しないという説である。

イギリスの経済学者・政治家であったデイヴィッド・リカードがこの学説の由来とされ、1970年代にロバート・バロー博士がこの中立命題について論文を書き、復活させた。

政府が公債を発行して公共事業を行なうと、人々は将来の増税に備えるために、公共事業によって得た所得を使わずに貯めておく。結果これによりGDPや雇用は、何もしなかった時と変わらず、経済には全く影響しないのである。

実証研究では、この仮説を棄却する研究があり、いまだに論争は絶えない。財政政策が経済活動に影響しないためには、①人々は(世代を超えて)長い視点で消費活動をしている、②所得・予算に制約がない、などの条件が必要となってくる。

多くの人は、近視眼的に物事を考え、予算以上の消費活動をすることもある。いずれにせよ、ケインズ的な財政政策には効果がないという、これも基礎的な命題である。


(3)モディリアーニ・ミラー命題

これは「MM定理」とも称され、資本市場が完全であり、法人税などの制度上の歪みがなければ、企業が資本を株式発行で得ようが社債発行で得ようが、企業価値には影響しないという説である。

これはファイナンスの命題でもあるが、どのような形で資本調達しても企業の経営には変わりがないという、企業版「リカード・バローの等価命題」と言える。

しかし、実際には資本調達によっては税制上の優遇策があったりなかったりとMM命題が成り立たないケースが大いに考えられる。

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