経済学の学部の講義では、特にマクロ経済学での「ケインズ派」と「古典派」の区分が必要である。
現在のマクロ経済学ではそれぞれ「短期」と「長期」、「ミクロ経済学的基礎づけなし」と「あり」と言い、「ケインズ派」とか「古典派」とか言わなくなってきた。
「ケインズ派」と「古典派」の違い
そもそも、この違いは何処から来るものか。1つは「時間軸」であると言える。
過去 現在 未来
(1)ケインズ派 減税実施 ⇒ GDP↑
(2)古典派 GDP↑ ⇐ 減税実施予定
従来のケインズ経済学では、過去に行った経済政策が現在の可処分所得や金利を変化させ、消費・投資支出に影響を与え、結果GDPや雇用、物価に影響する、いわゆる「適応的」な反応として、マクロ経済を見ている。
これに対して、古典派では将来に行われると予想される経済政策が現在の経済に影響を与えるという「前向き(フォワード・ルッキング)」な経済観を持っていると言える。
まさにこれを象徴する考え方として「ルーカス批判」なるものがある。ロバート・ルーカス博士が1970年代の論文で、「景気予測は現在の人々の将来予想を適切に反映せず、景気予測に基づく経済政策の実施は有害無益だ」とする趣旨の主張を展開した。
現在のマクロ経済学はこの「ルーカス批判」を受けて、人々の将来予想を反映させると経済政策の影響がどう変わるのかという、ケインズ経済学とは別の観点からのアプローチを可能にした。
いわゆる「合理的期待」という発想である。これにより、ケインズ経済学で無視されてきた①財政金融政策の持つ問題点、②人々の生活水準(厚生)に与える影響、③より効果的な政策ルール設計、について広範に分析する術を獲得した。
短期・長期
「長期」と「短期」の違いを指摘することも重要ではあるが、固定的要素を含む、すなわち物価が硬直的、変動しない「短期」の経済において行う政策と、物価が伸縮的で速やかに市場が清算される「長期」の経済において行う政策との違いも、上記の時間軸のとり方で説明できる。
すなわち、現在の物価が将来経済の物価を反映しているという「前向きな」想定を行うと、政策効果の考え方がケインズ派のそれと異なるのだ。
現在の物価が将来の物価、すなわち将来の均衡を反映していると、市場はすぐさま清算、需給は一致し、ケインズ的な総需要拡大策はGDPを増やさず、自然率(完全雇用時)GDPが実現する。
このときはもはや、需要政策でGDPや雇用を変動させることはできず、労働市場を流動化する、職業教育を充実させるなどの「成長政策」が重要となる。
実際、このケインズ派と古典派、どちらが正しいのか気になるところではあるが、どちらが正しいというよりも、「時間軸ひとつで経済政策の効果が異なるという視点を与えている」点に価値を見出すべきかと思う。
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