大学生らに奨学金を貸与している日本学生支援機構は、増加する滞納に歯止めをかけるため、金融機関でつくる個人信用情報機関に年内に加盟し、滞納者情報を 通報する制度を導入する方針を固めたことが10日、分かった。通報された対象者は銀行ローンやクレジットカードの利用が難しくなる可能性がある。
支援機構が加盟を予定している信用情報機関は銀行など約1400の金融機関が会員。平成22年度の新規貸与者から「長期滞納した場合は通報する」という条件で奨学金を貸与する。所在不明の滞納者情報の提供を受けることも検討している。
支援機構を所管する文部科学省などによると、奨学金は大学などを卒業後、一定期間内に返還しなければならないが、滞納は年々増加している。
19年度の要回収額は3175億円だったが回収率は8割を切り、660億円が未返済。貸し倒れの可能性がある3カ月以上の延滞債権額も2253億円に上っている。【産経新聞、2008,10,10】
この対応は当然である。しかしながら、これは卒業生の経済事情を反映しているのか、それともただ(奨学金を)返したくない、という奨学生が増えている証左なのか。
いったん奨学生が奨学金を借りれば、支援機構(債権者)よりも奨学生(債務者)の交渉力が高まり、結果的にいわゆる「踏み倒し」という事態が招聘しうる。これをホールドアップ(hold-up)と呼んでいるが、これは債権者である支援機構だけの問題ではなく、これからの債務者である奨学候補生にとっても深刻な影響を及ぼす。
仮に奨学金を返したくないという奨学生が増えると、奨学金支給事業の見直し機運が高まり、本当に奨学金を借りたいと考える奨学生候補者にとって、奨学金の受給が難しくなりうる。これは、いわゆるモラルハザード(moral hazard)の問題である。
これは丁度「健康保険」の問題と同じで、健康に気を遣わない人が増えると、健康に気を遣う人にとって健康保険料が割高になり、結果的に健康に気を遣う人が保険に加入しなくなり、保険会社は健康に気を遣わない人ばかりをカバーする羽目になるだけではなく(追記:この問題を特に「アドヴァース・セレクション(adverse selection)」といい、悪いものばかりが選りすぐられるところからそう呼ばれている)、健康に気を遣う人がカバーされなくなり、健康に気を遣う人が割を食う。
今回の措置は、ホールドアップ対策のひとつとして歓迎できるのではないか。
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