大阪府知事選 タレント知事で終わるな
社説:大阪府知事選 タレント知事で終わるな
故横山ノック知事や西川きよし参院議員など、大阪からはタレント政治家が生まれている。権威を信用せず、芸能人への親しみが強い土壌が、タレント候補に有利に働くことを改めて裏付けた。
大阪府は財政再建団体転落の瀬戸際にあり、関西経済の地盤沈下も進む。毎日新聞の世論調査でも、最優先で取り組んでほしい政策として、景気対策、財政再建が挙がった。
橋下氏は知名度抜群で、「子どもが笑う、大人も笑う大阪に」をキャッチフレーズに、駅前・駅中の保育施設整備、公立小学校校庭の芝生化といった身近なテーマを重点的に訴えた。
だが、財政問題については「全事業をゼロから徹底的に見直す」と述べるにとどまった。正面からの政策論争ではなく、イメージ戦に終始した印象が強い。
今後、財政再建や経済振興の具体的なプランを速やかに府民に示すことが不可欠である。
自民党本部は橋下氏の推薦を見送ったが、幹部が大阪入りして経済団体に支持を求めるなど、懸命に支援した。自公は昨年11月の大阪市長選で敗れており、大阪で連敗となると当面の国政にも影響が出るのは必至だったからだ。
橋下氏も自公の組織票を必要とし、支援を仰いだ。だが、橋下氏の人気が無党派票を取り込んだことが最大の勝因であり、自公の与党体制が信任されたわけではない。一方で、小沢一郎代表が国会を途中退席して応援に駆け付けた民主党は「ガソリン国会」の出はなをくじかれた形だ。
90年代から、全国で新しいタイプの知事が次々と誕生している。まず、政党に頼らない無党派の改革派知事が現れ、地方分権論議をリードしてきた。民間出身で、やりたいことをはっきり主張して当選した知事も注目を集めている。
滋賀県の嘉田由紀子知事は環境保護に力を入れ、新幹線新駅の建設を中止させた。宮崎県の東国原英夫知事は「宮崎のセールスマン」を自称し、観光客を増やして地元の活性化に貢献している。
橋下氏も官僚出身ではない点は共通しているが、知事になって、一体何をやりたいのか。選挙戦を通して一番肝心なそこが明確に伝わらなかった。
タレント時代には、核武装を主張したり、山口県光市の母子殺害事件で被告弁護団の懲戒請求を呼び掛けるなどの過激な発言が批判を浴びた。それを指摘されて「あれは話芸」と弁明したことも記憶に新しい。
テレビ番組受けする発言で耳目を引くやり方は、知事としては通用しない。タレントではなく、どんな知事を目指すのか、直ちにその行動が問われることを肝に銘じなければならない。
毎日新聞 2008年1月28日 東京朝刊
33年ぶりに与野党第1党が対決した大阪府知事選で、自民、公明両党が推すタレント弁護士の橋下徹氏が初当選した。
衆参ねじれのもと、苦しい政治運営を迫られる福田首相や与党は、一息ついたことだろう。
新知事が取り組むべき最大の課題は、危機的な状況にある府財政の再建だ。
1990年代初めのバブル崩壊以降、景気対策や関西空港関連の事業で府債が膨らむ一方、税収の柱である法人2税が大きく落ち込み、大阪府の財政状況は今や、全国最悪のレベルに陥っている。
苦境脱却のため、大阪府は、横山ノック知事時代以降、後任の太田房江知事までの間に、職員を約3割削減するなどの行政改革に取り組んできた。それでもなお、年間予算規模を上回る約5兆円もの府債残高を抱えている。
借金返済を先送りし、返済のための基金から一般会計に貸し出して、財政再建団体への転落を回避している状態だ。
深刻な地方財政の改善へ、総務省は、赤字を穴埋めするための地方債発行を各自治体に認める方針だ。だが、それで大阪府の問題が解決するわけではない。
新知事は、従来以上に歳出の刈り込みを進め、歳入増に取り組むしかない。出資法人の一層の整理、大阪市と重複する上水道などの事業統合といった思い切った策を講じる必要がある。自治体の財政再建の先例となる施策を期待したい。
大阪府知事選で、与野党の第1党同士が争ったのは、1975年に、自民党と当時の社会党がそれぞれ別の候補を推して以来のことだ。
3選出馬を断念した太田知事の過去2回の選挙は、自民、民主両党の相乗りだった。だが、民主党の小沢代表が、地方選挙でも、自民党との対決姿勢を打ち出し、「原則相乗り禁止」としたため、今回の与野党第1党対決となった。
民主党は、推薦した元大学教授の熊谷貞俊氏を全面的に支援した。「ガソリン値下げ隊」の国会議員団も応援に送ったが、国政の課題をそのまま地方に持ち込んだことに、違和感を覚えた有権者も少なくなかったようだ。
府知事選応援を優先して、新テロ対策特別措置法案を再可決した衆院本会議を欠席した小沢代表への批判も悪材料となったのではないか。
有権者の関心は高く、投票率は49%と前回を8・5ポイント上回った。これが、タレントとしての知名度の高い橋下氏に有利に働いた面もあるだろう。
橋下氏に行政の経験はなく、手腕は全く未知数だ。人気先行ではなく、しっかりした政策を実行してもらいたい。
(2008年1月28日02時07分 読売新聞)
任期満了にともなう大阪府知事選は、タレントで弁護士の橋下徹氏が初当選をはたした。自民、公明両党は党本部としては橋下氏を推薦しなかったものの、民主党の推薦候補を破り、昨年11月の大阪市長選に続く連敗を回避したことの意味は小さくない。
一方、民主党は党幹部が相次いで推薦候補の応援に入るなど真っ向勝負を仕掛けていただけに、手痛い敗戦となった。小沢一郎代表は新テロ対策特別措置法の衆院本会議再議決を途中退席・棄権してまで駆けつけたほどだ。
それだけに、今回の選挙結果は、予算関連法案などをめぐり、与野党が激しく対立している今後の国会攻防にも微妙な影響を与えそうである。
橋下氏の知事としての道はけわしい。とりわけ喫緊の課題は財政再建である。平成10年度から9年連続で実質収支の赤字が続き、府債残高は約4兆3000億円にのぼる。このままでは財政再建団体へと転落する危険性も指摘されている。
大阪府そのものの停滞は深刻だ。経済は好転せず、完全失業率は全国3位で、生活保護世帯数の増加もとまらない。高齢者や障害者を中心とした福祉に対する不満も多く、救急患者のたらい回しも相次いだ。
昨年秋には全国学力テストの都道府県別平均正答率で、小、中学校とも全国で45番目となった。大阪の教育界にも衝撃が走り、選挙戦でも大きな争点となった。
「元気がない大阪」は関西圏全体に沈滞ムードを波及させかねない。当選した橋下氏には地方のリーダーとしての期待もかかる。
おりしも知事選中には、前三重県知事の北川正恭氏や神奈川、京都、宮崎など地方の知事らが発起人となり、次期衆院選に向けた国民運動組織「せんたく」を発足させた。「脱中央集権、地方分権」が最大の実現目標だ。
大阪府も堺市にシャープの大規模工場を誘致することに成功している。地方の努力と工夫によって税収の増加をはかることはできる。
タレントとしての側面が強い橋下氏の政治手腕は未知数である。選挙戦では、子育て部門への集中投資を強調した。大阪の再生についても、思いきった対策や施策を期待したい。
2008.1.28 02:26(産経新聞)
社説2 新知事は府財政の再建を急げ(1/28 日本経済新聞)
27日投開票の大阪府知事選で自民府連推薦、公明府本部支持の橋下徹氏が民主、社民、国民新党推薦の熊谷貞俊氏らを破り、初当選を果たした。府民は現職知事では最年少となる橋下氏の若さと行動力に今後4年間の府政を託した。
現職の太田房江知事のように、大阪では共産党を除く与野党相乗り候補を軸とする知事選が多かった。今回はその構図が崩れたうえ、弁護士でタレントの橋下氏の出馬もあって府民の関心は高まり、投票率は過去最低だった前回を上回った。
大阪が抱える問題を巡り多角的な論戦が交わされた点は評価できるだろう。 主な争点は経済面の地盤沈下が続く大阪の再生策と府財政の再建問題だった。大阪は東京に次ぐ日本の拠点だが、国内総生産に占める大阪の比率は低下し、3位の愛知との差が年々縮まっている。人口では神奈川に抜かれて3位に転落し、1人当たり県民所得では7位に低下した。 しかし、大胆な再生策を打ち出そうにも、府財政は火の車だ。9年連続で赤字決算が続き、都道府県では唯一の赤字団体である。本来は一部返済すべき地方債を全額借り換えるという綱渡りの財政運営で、北海道夕張市と同様の再建団体への転落を回避しているありさまである。 バブル崩壊後の景気対策や関西国際空港関連の公共事業に伴う借金が重荷なうえ、他の都市部の府県と比べて各種団体や市町村などへの補助金や貸付金が多い。聖域を設けずに硬直的な歳出構造にメスを入れ、財政再建を断行することこそ、新知事が真っ先に取り組むべき課題だ。
橋下氏は「中小企業のセールスマン」を自任し、子育て支援の充実などを公約の柱に据えている。その内容をみると市町村の権限に属するものが多い。大阪市などとの役割をうまく整理しないと、二重行政による新たな非効率を生みかねない。 今回の選挙は、小沢一郎代表がインド洋給油法を再可決した衆院本会議を途中退席してまで応援した民主党にとっては大きな痛手だろう。一方、与党側は橋下氏個人を前面に打ち出し、政党色を極力抑える選挙戦術が奏功した。昨年11月の大阪市長選に続く連敗を避けられ、福田政権は一息ついた格好だ。
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