Tuesday, January 29, 2008

浪速円の導入を!最適通貨圏論から

「最適通貨圏」の問題は私の主要な関心である。大阪の経済的復興には、従来の円を放棄し、「浪速円」を導入することが、その有力な政策手法として考えられよう。

以下、この資料から最適通貨圏の簡単なまとめと、大阪府が円を放棄することが本当に可能なのかどうか、太郎の考えを述べてみたい。

※ 以下は、元阪大教授の今井豊先生の講演「アジアの共通通貨は幻想か?」からの引用ですが、本文中における誤り、誤解はすべて筆者である私に属します。
最適通貨圏とは、「自らの通貨と自らの金融政策を持つことが経済的に見て適切である地域」と定義できる。経済的に望ましい、という意味を理解するために、通貨を自前で持つの「コスト」と「便益」を考えてみることが必要である。

例えば、大阪府が「浪速円」を発行するとする。

大阪府にとっては、お金を製造しそれを管理するコストがかかる。お金とは「発行するほうの借金」、すなわち債務であり、借りていながら金利を払わない、経済学でいう「セニョレージ効果」(通貨発行益)で大阪府は利益を得る。

一方、大阪府民にとってのコスト(「浪速円」のユーザーにとってのコスト)は、
(1)「逆セニョレージ効果」による貸し損
(2)近隣県で使えない不便さ
(3)東京で使われる円と両替する時にかかる為替のリスク

がある。一方で大阪府民の便益は、独自の金融政策、すなわち浪速円の供給量を調節することによって景気安定化を図れることである。景気が悪くなれば、浪速円を多く発行すればよいのである。(その結果、対東京円の交換レートは下落するので、大阪府内の生産物の価格競争力が増す。) 加えて、非経済的な便益として、自前の通貨を持つ誇りがある。

ここで重要なのが、

大阪府全体にとっては、「セニョレージ効果」は帳消しになることだ。

製造・管理コストは比較的小さいから、自前の通貨を持つ場合、大阪が小さいほど、あるいは大阪の開放度が高ければ高いほど、国際的な取引量は増えるので不便性が高くなる。

反対に、大阪に特有な経済的なショック(例えば、毎年大きな台風に見舞われる、良好な気候により農作物の産出量が近隣に比べて多い、特別な鉱物、資源が産出されるなど)が大きいほど、メリットは大きい。景気が東京と同じように変動するなら、独自に金融政策を行う必要がないので、大阪のメリットは小さくなる。だが逆に、東京と景気変動が違えば、すなわち非対称的であるなら、独自の金融政策による景気安定化策は大阪にメリットがある。

以上をまとめると、最適通貨圏の判定基準は、

①もの・サービスの貿易の開放度
②景気変動の同時性
③景気変動が同時的でない場合は、
③-(1)資本や労働の移動性
(例えば大阪で仕事がなければ、隣へ行って仕事を見つけるなど)
③-(2)賃金、物価の柔軟性
(実質的な通貨交換レートは変わるので、それで調整もできる)
③-(3)中央政府を通じて、景気のよいところからお金が流れてくるような財政調整の仕組みの有無

である。

この点に関連して、私は最適通貨圏の二つの基準、開放度と景気の同時性、がそれぞれ独立ではないことを示した実証研究Frankel/Rose(1998)※をあげたい。

理論的には、特定の産業に特化するような形で経済関係が深まると、その産業に独自のショックが非対称的に働く為、経済の相互関係が深まったとしても、景気の同時性が高まるとはいえない。実証研究の結果、貿易関係の深化は景気変動の同時化をもたらすことが判明した。

この研究は政策的示唆に富み、最適通貨圏の基準は、現在の開放度や景気変動の動きで判断すべきではなく、新しい通貨を導入した後どうなるのかで判断すべきとなる。論文のタイトルである「内生性」とはそういう意味である。

この研究から類推すると、東京との交易があまり活発でないと、大阪と東京の景気の同時性は得られず、同じ通貨を持つことの便益、メリットは小さいことも考えられる。

本気で大阪に「浪速円」を導入するには、まずは具体的な実証研究が必要になる。(1)景気の同時性、(2)大阪独自の経済的ショックの特定化、(3)東京などの他外部との交易の多寡、などの実証的判定、または、公的制度的な土台(例えば、どの公的機関が「浪速円」を発行するのかなど)を構築する必要もあるだろう。日銀大阪支店が「浪速円」を発行するという手があるが、日本銀行はそんなまねは絶対にしないだろう。

私は一度試験的に一部地区(例えば、大阪市内全域)で「浪速円」を大阪府が発行してみてもよいのではないかと考えている。が、大阪府民はそんな信用のない通貨を取引で使うかどうかが心配になる。

Jeffrey A. Frankel and Andrew K. Rose (1998), “The Endogeneity of the Optimum Currency Area Criteria”, The Economic Journal, 1009-1025.

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