私はちょっとの間だけ会社員をしていたことがあるが、そこで先輩からよく教わったのが、「マニュアルに頼るな」ということであった。派遣社員として、私が別会社で働いたときもそのように教わった。
しかし、私はふと思った。マニュアルに頼るのはそんなにいけないことなのか?
仕事のやり方をメモし、整理して、その工程を文書に残し、次回からそれを見て仕事をすることは、できるだけ同じ間違いをなくし、自分がやっていることを後で改めて見直すときに、必要なことであるように考える。
「マニュアルに頼るな」という先輩の理由は、「臨機応変に対処できない」というものであるが、まずは仕事の基礎を身に付けてから、応用問題(臨機応変な事態)をこなすことこそ正道であると思う。
人それぞれ仕事のやり方があり、そのスピードは違うものと思う。そこで、仕事の出来不出来を平準化するために、勉強に限らず、ビジネスにおいても、教科書が必要だと思う。色々な問題を解くには、その解き方を書いたマニュアル(先輩の口頭ではなく、紙に書かれたメモ)が必要である。何回も見直し、何回も解いていけば、自然と応用力がつく。
私の学習理論の根底にあるものは、「教科書(マニュアル)を読みこなせ」というものである。参考書(先輩のアドバイスなど)も必要ではあるが、教科書(仕事のやり方が文書で整理され、問題例が載っているメモなど)の方が、特に新参者にとっては重宝する。
案外、仕事の現場には教科書、マニュアルらしきものがないことに気がつく。そもそも仕事のやり方は、企業のノウハウであり、「見えざる資産」(経営学者伊丹敬之氏の言)であることから社外秘とされる。このことから、仕事のやり方を書いた教科書を作成しないのかもしれないが、ただ単に時間がないからマニュアルが作れないという理由が多いように思う。
しかし、教科書を作ることは企業の信用を高める上でも必要かもしれない。10人社員がいて、10人とも解答が違うのがよい会社なのだろうか? やはり、10人社員がいて、出てくる解答が1つの方が消費者、ユーザーとしては安心する。
エコノミストがよく批判され、信用されないのもこの点にあるといえる。アメリカの元大統領ロナルド・レーガンが、「エコノミストたちになぞなぞクイズを出せば、100問につき3,000通りの答えが返ってくる」となじったほどだ。
最近は定番の経済学の教科書がたくさん出版され、エコノミストの政策提言も平均化されつつあるように思う。 このことからかもしれないが、政策現場における経済学に期待を寄せる向きもある。
話は戻って、時間がかかり、めんどくさく、少し愚直なことではあるものの、マニュアルを作成し、それに基づく仕事に揺るぎはないと思う。
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