Tuesday, June 20, 2006

村上ファンド

6月5日月曜日、MACアセットマネジメントこと村上ファンド代表の村上世彰氏が日本放送株取得に関わるインサイダー取引の容疑で逮捕された。

「もの言う株主」で有名になった村上氏は、日本の企業統治(コーポレート・ガヴァナンス)に株主の意見がもっと反映されるべきである、との立場を強烈に打ち出した。その自信過剰とも見える彼の説得に、一部マスコミは彼の金儲けに対する考えを批判した。

かつてホテルニュージャパンの経営者であった故横井 英樹氏が、「金は汚く稼いで、きれいに使え」という名言(?!)を残し、今回の事件はそれを思い出させた。村上ファンドの村上氏、そしてライブドアの堀江氏といい、汗水なくして荒稼ぎするマネーゲームに公衆は高い反感を抱かずにいられなかった。

さて、当の村上ファンドは何をしていたのだろうか。根本的な疑問に立ち返ってみたい。この話をするには例え話を使うと理解がしやすい。

私がアイスクリーム屋を立ち上げたとしよう。

アイスクリーム屋を経営するには金が必要だ。そこで私は株券を作ってお金を集めようと考えた。株券はお金を持っている人に買ってもらうことで、お金を集めることが出来る。(このようなお金を集める方法をエクイティー・ファイナンスという。)

しかしながら、お金を借りるのであるなら、銀行があるとおっしゃる人がいるかもしれないが、銀行はふつうお金を貸してはくれない。

さて、株券でお金を集めるため、どのようなアイスクリームを販売しようとするのかを私はお金を持っている人たちに説得して回った。高齢者、シニア向けの低脂肪、低カロリーのアイスクリームを開発、販売することを説明した。金はほどほどに集まり、それで事業をすることが出来た。幸運なことに、私はアイスクリーム事業を何とか成功させることが出来た。利益が出たのである。

私はその利益をお金を出してくれた株主に還元することにした。これを「配当」という。株主は、さらなる高い配当が得られることを期待して、私の事業がさらに成功することを願った。さらに、私のアイスクリーム事業の成功を聞きつけ、新しい人が私の株を買いたいといってきた。株の価格である株価は値上がりした。

ここで、突如頭のいい秀才が私の株を買い占めようとしてきた。私の株価がさらに値上がりすることを見込んで、発行している株券を私の株主から買い占めたのである。その秀才は、私のアイスクリーム事業はさらに儲かるし、株主にその儲けをもっと還元すべきだ、といってはばからない。ことあるごとに私の経営にコメントを寄せ、時に私を批判する。

しかし、私はその秀才が何を考えているのかすぐにわかった。私の株を買い占めて、株価が上がったころを見計らって、売ってしまうのである。株券の買いと売りの差額である利ざや(キャピタル・ゲインという)を得ることが目的なのである。そもそも私の事業には興味がない。

噂によると、その秀才は知り合いからたくさんのお金を集めて、そのお金を使って儲かっている企業、株価が上がりそうな企業の株を買って、その売買で利益を得ているという。その秀才もさることながら、その秀才の知り合いもかなり儲けているらしい。

以上、ファンド会社とは、顧客からお金を集めて、そのお金で儲かっている企業や優れた技術・顧客を持つ企業の株券を購入し、その運用益で事業が成り立っている。優良な企業に対して出資すること自体悪いことではなく、更なる事業拡大にとって大きな支援になりうる。しかし、事前にこれから買う株やその企業の内部について知った上で、株を購入することはインサイダー取引といって違法なのである。なぜなら、これからその企業の株を買おうとする人からすると、その取引は公平ではないからだ。

村上氏は「(事前にその企業の内容を)聞いちゃった」と言っていたが、これが違法であることに違いはない。金儲けにはルールがあることを改めて知らせてくれた今回の事件は、公平かつ競争的な市場経済において、お金は「汚く稼ぐ」のではなく「ルールに基づいてきれいに稼ぐ」ことが求められることを教えてくれた。

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