先日公表された2006年度の経済財政白書によれば、日本経済はデフレを脱しつつあるという。日本経済は「平時」の状態に戻りつつあるというが、ここで一つの疑問に直面する。
金融緩和政策により、日本はデフレから克服できたのであろうか?
そもそも金融緩和政策とはいかなる政策なのであろうか? 金融政策を行う日本銀行が、国債市場で市中銀行(民間の銀行ことで、街中にある銀行を思い浮かべればよい)から国債を買い、その代金を支払うことが「金融緩和政策」と呼ばれるものである。この政策は経済が不況期のとき、デフレ時に実施される。
以上のように、市場から国債を売買する政策を「マーケット・オペレーション」といい、国債を買う政策を「買いオペレーション」、売る政策を「売りオペレーション」という。
一般に売りオペレーションは、金融引締政策のことであり、好景気のときにインフレを退治するときに行う。
ここでよく言われる疑問が一つある。
金利を上げ下げする政策と、上記で述べた金融緩和ないし引締政策とはまた違うものなのであろうか?
結論から言うと、同じことを別の角度から言っているに過ぎない。つまり、金利を引き下げることは、金融緩和をすることなのである。国債市場で国債を買うことで、市場にお金が沢山流れる。このことにより、国債の価格が上昇し、国債の金利は低下する。国債の金利が低下することで、他の金利も連動して低下する。これは、金融緩和で市場により沢山のお金が回ることで、資金市場での貸出金利が低下することを意味する。よって、資金を提供する人、つまり預金者(債権者)にとっては、金利が低くなることで預貯金が有利な資産運用ではなくなる一方、資金を借りる人、債務者にとっては金利が低くなることで借入が有利になる状況が生まれるのである。
お金が沢山経済に流れることは、経済にあるモノとお金の量とを比べた場合、お金の量が多くなることになり、お金の価格である「金利」が低下するのである。これが金融緩和が経済に与える影響である。[問;逆に金利の上昇、金融引締めのときはどのように経済に影響するのか?]
預金者(債権者)にとって、金利が低くなることで預貯金が有利な資産運用ではなくなる一方、資金を借りる人、債務者にとっては金利が低くなることで借入が有利になる状況は、まさにこれまでのデフレ下の日本経済の状況であった。俗に言う「低金利」は金融緩和によりもたらされたものであるといってよい。しかし、債務者がよりお金を借りやすくなったとはいえ、経済全体ではお金を借りる人が少ないために、より一層の低金利の状況を作り出した。これを資金需要の低迷という。このため、金利が下がっても、借金をして消費や投資を増やす個人や企業はあまりいないため、経済の需要面が刺激されることはなかったのである。では、なぜ金利が下がっても人は消費や投資を増やさなくなったのであろうか? 金利の低い今、将来金利と物価が上昇するだろうといわれる今こそ、借金はより有利な資産選択であるというのに・・・。
現在の低金利は金融緩和という人為的な結果であると同時に、少子高齢化、すなわち若い勤労世代の将来の年金や社会保障に対する不安という自然発生的な結果でもあるという見方を採用すれば、資金需要の低迷が説明できる。つまり、将来不安は今お金を使うことをあきらめ、将来の生活のため、老後のためさらに預貯金を増やしているのである。金融緩和、そして国民の将来不安の両方が現在の低金利、強いては需要の低迷するデフレ経済を作り出しているのである。
では、この観点から、ここで最初の問題に戻る。金融緩和はデフレを退治すること、克服することはできるのか?
答えは、いいえ、である。確かに、デフレ時には金融緩和を実施することにより需要の更なる低下を抑止することができ、需要の拡大をも促しうる。しかし、それだけでは足らず、需要の低下する昨今のデフレ経済には、現在の消費を低下させている将来不安を取り除く社会保障制度改革が必要である。
将来の社会保障を守るためにその財源を消費税の増税で賄おうとする、昨今の政策論議も需要の低下する経済に対する対応になりうる。真剣に将来のことを考える為政者なら、消費税の増税は将来不安を取り除く、将来の社会保障をより強固なものにする政策であるため実施しなければならない。だが、消費税を仮に上昇させるのであるなら、消費税からの税収がどのようなかたちで社会保障に使われているのかを明瞭にさせなければならない。ただでさせ、税金の無駄遣いが指摘されている中、更なる増税は更なる無駄遣いにも見えるからである。そのため、消費税の増税と歳出削減はセットで取り組むべき課題である。歳出削減は一般的に経済の需要にマイナスの効果があるとされるものの、それが将来の社会保障をよりよいものにするという事前のアナウンスがあれば、今経済にとってマイナスでも将来の経済発展を促進するであろう。
金融緩和はデフレを退治する力を持つが、さらに需要を拡大させるには政府による社会保障改革がより大きな力になりうるのである。
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