Sunday, July 30, 2006

金融政策と公定歩合(1)

中学校の教科書を目にする機会がある。世間では、日本の金融政策についての関心が強い。そこで、日本銀行の役割がどのように教えられているのかを見てみた。すると、教科書の中の囲み記事が気になった。

「日本銀行は、公定歩合を上げ下げすることなどによって、資金の供給を調整することができます。景気が悪いときには、公定歩合が引き下げられます。最近の公定歩合は戦後最低の水準となっています。」
中学校社会科用『新編新しい社会 公民』東京書籍、2006、pp.121

何のことはない。私もかつてそのように教わった。しかし、実際には、公定歩合の上げ下げによる資金量の調節が行われてはいない。

日本銀行は、1995年3月「金融調節(日銀の市中銀行への貸し出し)の基本的な指標を、公定歩合から無担保コール翌日物金利(※1)に変更」した。ここから、日銀は1996年1月に「公定歩合による金融調節、日銀貸し出しを行わない」と表明したのである。これ以来、日本銀行の金融政策にとって最重要の政策金利であった公定歩合は影を潜めている。

そもそも、公定歩合とは、日銀が民間の金融機関(市中銀行)に資金を貸し出す際の金利を指し、金融関係者は「マル公」と呼んでいる。しかしながら、日銀法には、「公定歩合」という表記はなく、「手形の割引にかかる基準となるべき割引率、貸付にかかる基準となるべき貸付利率」が正式名称である。

日銀の金融政策の手法には3種類ある; ①金融機関への資金貸出操作、②金融機関との間で債券や手形を売買する公開市場操作(マーケット・オペレーション)、③市中銀行の日銀に預け入れている預金残高の割合である預金準備率(支払い準備率)の操作、である。

そのうち、公定歩合の上げ下げによる金融調節は①の手法に当てはまり、公定歩合を上昇(下落)させると、市場に出回るお金の量を減らす(増やす)ことができる。公定歩合の上げ下げは、預金金利をはじめ市中金利の動向を大きく左右し、日銀の金融政策の方向を市場に告げる効果(アナウンスメント効果と呼ぶ)が大きい。したがって、日銀の政策金利としてのイメージは大きかった。

しかし、現在の日本銀行は、公定歩合操作よりも金融機関同士が資金をやり取りする短期金融市場(これをコール市場と呼ぶ)の金利であるコール・レート(※2)の操作により、金融を調節している。7月14日に日銀の政策委員会・金融政策決定会合で、「ゼロ金利政策」を解除したときの「ゼロ金利」とは、公定歩合のことではなく、短期金融市場(コール市場)における誘導目標金利であるコール・レートのことである。

ここから先は「金融政策と公定歩合(2)」に続く・・・。

※1 無担保コール翌日物金利・・・・・翌日の決済で資金をやり取りする際の金利のこと。※2の超短期のコール・レートの一種。

※2 コール・レート・・・・・資金不足の銀行が資金余剰の銀行から資金を借り入れる際の金利のことで、銀行間で電話(コール)によりやり取りすることからそう呼ばれている。コール・レートが下がると、資金不足の銀行が資金を借りやすくなり、企業や個人への貸出しが増える。コール・レートをゼロに近い値に誘導する金融政策をゼロ金利政策と呼んでいる。

上記ブログの内容は、読売新聞「なるほど! 経済」2006.7.19.を参考文献として、一部引用されている。

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