Friday, May 11, 2007

憲法第9条

国会では、改憲論議が盛んである。今年夏の参院選を控えた安倍首相は改憲に向け、気合十分である。

改憲については、慎重な意見が根強い。特に、憲法第9条(戦争の放棄、戦力の不保持、交戦権の否認)を変えることに対する抵抗はかなり強い。

与党である公明党は、改憲について及び腰である。自民党内にも、現状の「解釈改憲」(憲法の条文、文言は変えずに、その時々の時勢に応じてその解釈を変える)でよいとする姿勢がある。

私は、改憲に抵抗している人の多くは、いわゆる「第9条」の改憲に警戒の念をもっている人ではないかと考えている。

そこで、本日はこの「第9条」の役割について考えていきたい。「第9条」は世界に対していかなる影響を及ぼしてきたのか。


私はこの「第9条」の役割を考えるとき、「ゲーム理論」を使うようにしている。簡単に紹介したい。


日本と中国を例にとろう。ここでは、日本と中国が対立し、両国ともに自分の国と安全を守るために、「核武装する」、「核武装しない」という2つの戦略を立てている。両国ともに「脅かされる状態」だけは絶対に避けたい。

自国の安全を守り、かつ自国が国際的に優位な立場を築くにはどのような戦略をとるべきなのか。ここから、ゲーム理論がスタートする。

〔日本の考え〕
(1) 中国が核武装しないとき、日本は世界が平和であることが何よりも望ましいが、中国に対しては、安全保障上常に優位でありたいと考える。そこで、日本は、「核武装しない」ことよりも、「核武装する」ことを選ぶ。

(2) 中国が核武装するとき、日本は国家の安全を守るため「核武装」を選択する。

〔中国の考え〕
(1) 中国は、日本が核武装しないとき、世界が平和であることが何よりも望ましいが、日本に対しては、常に優位でありたいと考える。そこで、中国は、「核武装しない」ことよりも、「核武装する」ことを選ぶ。

(2) 日本が核武装するとき、中国は、国家の安全を守るため「核武装」を選ぶ。



よって、日本、中国双方は、「核武装しない」ことよりも「核武装する」ことを選ぶ。

このように、相手がいかなる戦略をとろうとも、自分がとる戦略(ここでは「核武装する」)は変わらない。このような戦略をゲーム理論では、Dominant Strategy 支配戦略 という。

この場合、両国にとって、「核武装する」ことが支配戦略であり、両者は「核武装する」状態に陥る。

このとき、両国は自分の利得を優先するあまり、結局世界が緊張状態に落ち着いてしまう。
このように、個々にとって「よいこと」が、全体にとって「悪いこと」になってしまうジレンマ(板ばさみ状態)に直面するゲームを Prisoners’ Dilemma Game  囚人のジレンマゲーム と呼ぶ。 

できれば、お互いが武装しあうより、平和であることが望ましい。お互いが武装しあうような囚人のジレンマをどう回避すればよいのか。一つの有効とされている方法は、

「 核武装しないこと、核放棄を世界に対して宣言する。」

ということである。これが信頼できる宣言であるなら、相手も核武装しようとはしない。なぜなら、核武装は莫大な軍事資金を必要とし、できれば平和な状態のほうが金もかからず、幸せであるからだ。

この点で、「第9条」は世界が武器を持つ囚人のジレンマを回避する有効な力となっていると考えられる。


第9条が宣言している「戦力の不保持」は日本のみならず、中国、朝鮮半島を含めた東アジア全体の安全・安定に貢献しているのだ。 また、日本が国の方針として掲げる「非核三原則」も、東アジア周辺国の核開発競争の抑止に一定の役割を担っていると考えられる。

憲法第9条の改憲に慎重な政府与党の姿勢は、この点で理解できよう。重大な政治判断は常に慎重であることが求められるのだ。

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