Thursday, January 09, 2014

アベノミクスの経済的帰結

安倍政権が誕生し1年が過ぎた。異次元の金融緩和策、積極的な財政拡張策、投資を呼び起こす成長戦略の3本の矢は、民主党政権に失望した状況下では非常にセンセーショナルだった。

この「アベノミクス」に対して、すでに多くの批判本が出ている。ここでは、その批判をまとめるよりも、考えうる経済的帰結を私が知りうる標準的なマクロ経済・金融論によって短期と中長期に分け、2点だけ確認しておきたい。


1.短期の帰結
金融緩和策や財政出動は、短期的に「需要増加」効果があると言われている。

金融緩和について、日本銀行が操作できるマネタリーベース(現金+準備金)の増加が、前年度比34%の伸びであり、2013年12月末残高は201兆8472億円と10カ月連続で過去最高を更新した。

2013年4月に導入した異次元緩和で、マネタリーベースを年間60─70兆円増やし、14年末270兆円の残高を日本銀行は目指している。(ロイター2014年1月7日 竹本能文)

マネタリーベースを増やすことで、人々が支払いに使っているマネーストック、すなわちM1(現金+預金)を増やし、金融市場の金利を引き下げることで、経済活動を活発にさせる「需要増加」効果と、長い目で見て、物品の物価が上昇する「物価押し上げ」効果があると言われている。

ただ、日本銀行のM1統計を見る限りでは、2013年6月以降5%台の伸びにとどまっている。一方で、マネタリーベースは同じ日銀統計で同年6月以降36%以上の伸びを維持している。つまり、マネタリーベース以上にM1が増加せず、期待される「需要増加」効果は見込めそうにない。

また、財政出動についても、 直近の2013年7-9月期四半期別GDP速報を見ると、公的資本形成(公共投資)6.5%の伸びが民間需要全体の伸び0.5%を大きく上回っていることから、全体の成長率(景気)を公共投資が支えていることがうかがえる。民間需要を増やすような「呼び水」として寄与していないのが現状である。

が、現時点では金融緩和策と財政出動による大きな効果が認められない。今後は効果があるかもしれないし、または需要の低下を引き続き公共投資が支える状況が続くかもしれない。
 

2.中長期の帰結
もう少し長い目でアベノミクスの帰結を見てみよう。3本の式が登場する。

GDP=消費+投資+政府支出+輸出-輸入・・・・・(1)

GDP-消費=貯蓄+税金・・・・・(2)  

よって、(1)式と(2)式から、

(貯蓄-投資)+(税金-政府支出)=輸出-輸入・・・・・(3) となる。

(3)式は、日本経済の金回りを表している。気を付けたいのは、この等式は常に成り立つ恒等式と呼ばれるものである。すなわち、2X+3X=5Xのような式である。

(3)式左辺が内需(民間需要+公的需要)、右辺が外需(経常収支)を示している。

日本の場合、左辺第1項、国内への投資(民間需要)が少ないため、余った貯蓄を日本政府へ貸し出し(国債を購入する)、また海外へ貸し出す(これが日本が債権国だといわれる意味)という構造になっている。

このとき、(3)式右辺はプラス、経常収支黒字であるので、輸出が輸入を上回っている。これは現時点の日本経済を説明できている。

しかし今後、経常収支が赤字化することが懸念されている。ここで政府支出を税収以上に増やし、金融緩和・投資減税などにより投資を貯蓄以上に増やすことで、(3)式左辺全体をマイナス、すなわち、右辺をマイナスにさせることになる。右辺のマイナスは経常赤字である。これはどういうことか。

ずばり日本を債務国にする、日本は経常赤字を賄うために、今後海外から外貨を借りなくてはならないのだ。そのために、日本国債や他資産が海外投資家へと流れることになる。

ここで一つの懸念は、日本政府の長期債務残高の高さなどから、海外銀行・保険会社などの外国人投資家により国債が安く買いたたかれると、日本の金融機関の保有国債の価値が目減りし、そのバランスシートを悪化させ、自己資本比率維持のために貸し渋りを招くかもしれない。

強いては、日本経済に信用不安が起こりかねない。

確かに、日本の長期債務が、日本国民と経済にどのような帰結をはらんでいるのかは分かっていない。全く問題ないとする意見、かなり問題だとする意見もある。

しかし問題は、理論家がどう見るかではなく、海外の投資家が日本の将来をどのように見るかである。仮に、悲観的な見方が海外市場で大半を占めれば、日本経済の先行きにたちまち暗雲が立ち込めよう。

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